お口のリハビリテーション

REHABILITATION

食事の時にむせることが多くなった、
滑舌が悪くなってきた方へ

口腔内の機能(咀嚼、嚥下、構音、唾液、感覚)が低下していく症状のことを口腔機能低下症といいます。原因は主に加齢ですが、その他にも疾患や障害など様々な要因があります。
口腔機能低下症を放置していると、食事をすることが難しくなり、お口だけでなく全身の筋力が衰え、特に高齢の方は要介護状態につながります。
当院では口腔機能低下症を診断し、患者様に合った治療法をご提案しています。

お口の機能

食べる
私たちが、普段何気なく食べたり飲んだりする行為を「摂食・嚥下(せっしょく・えんげ)」と言います。「摂食」とは食べること、「嚥下」とは飲み込むことを意味します。 摂食・嚥下は、①口に入れた食べ物を歯や舌で噛み砕き、②飲み込みやすい塊(食塊)に整えた後、③舌の運動によってのどへ送り込み、④嚥下により食道へ送り、⑤食道の筋肉や重力により胃へと送るという5つの段階で行われます。
唾液の分泌
唾液は、主に自浄作用、緩衝作用、再石灰作用の3つの働きをしていて、私たちの口腔内を守ってくれています。さらに唾液には「ムチン」という糖たんぱく質が含まれており、このムチンがお口の中の粘膜を覆って外部からの刺激や乾燥を守ってくれます。
言葉を話す
口の機能の一つとして構音機能という特有の機能があります。構音機能とは、話し言葉の音声を産生する機能で、上あご、下あご、舌、唇を動かすことにより、さまざまな音が作り出され音声となります。あごや舌、唇はすべて筋肉により動かされているため、筋肉を適切に維持することが言葉を話すためには必要です。
顔の表情をつくる
ご家族やご友人と楽しく会話をする際に欠かせないもの、それは「嬉しさ」や「楽しさ」を伝え合う「表情」です。表情をつくるためには、ほおなどの筋肉がスムーズに動かなくてはなりません。心豊かな生活を送るために口のまわりの筋肉が大きな役割を果たします。

お口の機能が衰えると
どうなる?

加齢によって口腔機能が低下すると、固い食べ物の摂取が難しくなり、嚥下力も低下し、食欲不振や栄養不足につながる可能性があります。
これによって全身の筋肉や代謝機能が衰え、日常生活の活動量も減少していきます。口腔機能低下が進行すると、社交や外出が制限され、寝たきりに至ることもあります。定期的な歯科検診と適切な治療、また口腔機能のトレーニングが重要で、健康な生活を維持するために不可欠です。
口の健康を守ることは全身の健康を守ることに直結し、老後の生活の質を向上させることにもつながります。

お口の機能の検査方法

1.口腔衛生状態

舌の上の汚れを見て、口腔衛生状態を確認します。
舌の汚れのことを舌苔といいますが、舌苔とは舌表面に白色または黄褐色のこけ状に見えるものです。舌苔の付着原因は、喫煙、薬の副作用による唾液分泌低下、免疫力低下による口腔内常在細菌叢の変化などさまざまあります。舌の運動機能低下に伴う自浄作用の低下により、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。

2.口腔乾燥

口の中の乾燥や潤いの状態を機械を使って評価します。また、ガーゼを噛んでもらい、唾液の量を測定して判断する方法もあります。口腔内が乾燥すると味覚が感じにくくなるため食べる楽しみが低下したり、口の中に汚れがつきやすくなり、むし歯や歯周病になるリスクも高くなります。

3.咬合力

咬合力とは、食べ物を噛むときにかかる力のことを指します。
咬合力の検査は専用の機械を使用して、3秒間全力で噛みしめた時の歯列全体の咬合力を計測します。また義歯装着者は、義歯を装着した状態で計測します。噛む力が弱いと、硬いものが噛めず、栄養が偏ってしまう可能性があります。そのままにしておくと、だんだんと硬いものが噛めなくなり、筋肉が痩せ、最悪寝たきりとなってしまうこともあります。

4.舌口唇運動機能

舌と唇の運動機能検査では、これらの部位が正しく動作しているかを確認します。
「パ」「タ」「カ」をそれぞれ5秒間から10秒間発音し、その回数を数えることで、お口の機能を評価します。舌や唇の機能が低下すると、食べ物や飲み物をこぼしやすくなり、発音が不明瞭になることがあります。また、食べ物や飲み物を喉までうまく送れなくなり、その結果、むせやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。

5.舌圧

舌圧とは、舌の力を指します。
舌圧検査では、小さい風船のように膨らんだ装置を舌と上あごで挟み、押しつぶし、舌の力(最大舌圧)を実際に口腔内で測定します。この舌圧が弱いと「噛んで飲み込む」という一連の動きに支障が出ます。一気に食道に送り込めなくなるので、上あごや喉の奥に食べ物が残ることがあり、むせたり誤嚥性肺炎の原因になったりします。

6.咀嚼機能

咀嚼機能とは、食べ物を細かく噛み砕いたり、すりつぶしたりする能力を指します。
咀嚼機能検査ではグミゼリーを咀嚼して溶け出たグルコースの値を測定し、どれくらい噛めているかを測定します。
咀嚼機能が低下するとものを細かく噛むことができなくなってしまうので、消化不良を起こしたり、胃腸の調子が悪くなることがあります。

7.嚥下機能自覚症状アンケート

嚥下機能とは、飲み込む力のことを指します。
嚥下機能を検査する方法には、患者様自身に質問表を記入していただく方法と、患者様に直接質問して検査する方法の2種類があります。当院では、患者様に質問して嚥下機能を評価する方法を採用しています。
嚥下機能が低下すると、食事が思うように取れず、栄養不足に陥ることがあります。その結果、全身の筋肉が衰え、体重が減少し、最悪の場合は寝たきりの状態になることもあります。また、飲み込みがうまくいかず、むせやすくなるため、誤嚥性肺炎や窒息のリスクが高まります。

お口の機能を高める
トレーニング方法

あいうべ体操

口周りにはたくさんの筋肉があります。口腔周囲筋と呼ばれ、舌・頬・唇・顎などの筋肉が含まれます。口腔周囲筋は、会話や食事(咀嚼)で日常的に使われていますが、十分に使われていないというのが実情です。
あいうべ体操とは、口呼吸を鼻呼吸に改善するための簡単なお口のエクササイズです。誰でもいつでも簡単にできるこの体操は、毎食後に10回、1日合計30回を目安に続けることで、舌の筋力が鍛えられ、自然と口を閉じることができるようになります。
体操は口を動かすだけの簡単な体操です。声は出しても出さなくてもかまいません。大きく口を動かし、ゆっくりと行うのがポイントです。

① 「あ~」と口を大きく開けます
② 「い~」と思い切り横に口を広げます
③ 「う~」と唇をとがらせて、大きく前に突き出します
④「べ~」と舌を出します

①~④を1セットにして、1日30セットを目標に毎日続けてみましょう。

パタカラ体操

パタカラ体操とは、「パ」「タ」「カ」「ラ」と発音することで、口や舌を動かし食べたり飲んだりする機能の維持向上がはかれる体操です。パタカラ体操を行うことで、唾液の分泌を良くしたり、誤嚥を防いだりすることができます。口を大きく動かしてハッキリと発音することがポイントです。
パタカラ体操には、次の3つの方法があります。

①単音の発音
「パ」「タ」「カ」「ラ」と1音ずつ発音します。
②連続の発音
「パパパ……」「タタタ……」「パタカラ、パタカラ……」と連続して発音します。
③文の発音
「パ・タ・カ・ラ」を含む文を発音します。よく使われるのが「パンダの宝物」で、「パンダのたからもの、パンダのたからもの……」と繰り返し発音します。

これらの方法はすべて、食事の前に口と舌の準備運動として各10回程度行います。
こうした体操を用いることによって口・舌を鍛え、食べる・飲み込む機能の向上を目指しています。